

子どもの習い事としてのヴァイオリン
— 何歳から始める? 練習時間はどれくらい必要? コンクールは出た方が良いの? という疑問に答えます—
ヴァイオリンを習わせたいと考えたとき、「ヴァイオリンは何歳から始めるのがよいのか」「子供の練習時間はどれくらい必要なのか」「コンクールを目指すことはできるのか」といった疑問を持たれる保護者の方も多いと思います。
ここでは、子どものヴァイオリンレッスンについて、実際の指導経験をもとにお話ししたいと思います。
筆者プロフィール

井阪美恵
ヴァイオリニスト
桐朋女子高校音楽科を経てローザンヌ高等音楽院を首席卒業。ザルツブルク・モーツァルテウム大学大学院修士課程を満場一致の最優秀で修了。帰国後はソロ、室内楽、オーケストラなど年間50回を越えるコンサートに出演。テレビ朝日「題名のない音楽会」に若手ソリストで構成した「特別編成オーケストラ」で出演。
演奏活動と並行して、少人数制のヴァイオリン教室 Atelier Belle Sonoriteを主宰。
→講師プロフィールはこちら
ヴァイオリンを習う意味
近年は「コスパ」や「タイパ」という言葉をよく耳にします。
短い時間で効率よく成果を出すことが重視される時代です。
しかし、ヴァイオリンのような楽器演奏は、その価値観とは少し違う世界にあります。
音を聴き、身体を使い、毎日少しずつ積み重ねていく。
結果が出るまでには時間がかかります。
楽器の中でも特に演奏することが難しいのがヴァイオリン。
けれども、その過程で育つものがあります。
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高い集中力
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粘り強く継続する力
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自分自身を客観的に見つめる力
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他者と協力して一つの作品を作り上げるコミュニケーション能力
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人前で表現する力、緊張を受け入れる力
こうした力は、近年よく言われる非認知能力とも重なります。
また、AIが急速に発展していく時代において、楽器演奏のように身体を使って表現する芸術は、
むしろこれからさらに価値を持つものではないかと感じています。
また、楽器の演奏はデジタル機器と距離を置く貴重な時間にもなります。
ヴァイオリンの演奏は右手に弓、左手に楽器、譜面台には紙の楽譜。
両手が塞がっているので、練習中にスマホやタブレットを使うことはできません。
練習をしている時間は、100%自分自身に集中します。
短い時間であっても、スマホやタブレットから離れて何かに集中する時間を毎日持つことは、
現代の子供達にとって集中力を取り戻すために重要な習慣となります。
楽器演奏は、すぐに結果が出るものではありません。
子どもの頃から何年もかけてコツコツ続けた人だけが、楽器を弾けるようになる。
他者が簡単に真似することができないものだからこそ、貴重で、大きな自信につながります。
スマホひとつでなんでも手に入り、さまざまなハウツーが存在し、AIが助けてくれる。
誰でもWebサイトが作れ、誰でも動画を作成でき、誰でもSNSで発信できる時代。
全てがどんどん簡単になり、「誰でもできる」ことが日を追うごとに増えていく時代。
そういう時代だからこそ、難しいことにあえて挑戦し、みんなが簡単に真似できないことを
やり遂げることに大きな意味があると考えています。
ヴァイオリンは何歳から始める?
ヴァイオリンは、一般的には3〜4歳頃(先生の話を聞ける年齢)から始めることが可能です。
ただし、必ずしも「始める年齢が早ければ必ず有利」というわけでもありません。
私の周りの演奏家でも、
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6歳でヴァイオリンを始め、後に全日本学生音楽コンクール小学生の部で全国優勝した方
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8歳から始めて東京藝術大学を首席で卒業された方
など、スタートの年齢が遅くても、素晴らしいキャリアを築いている人はたくさんいます。
逆に、2歳で始めても、あまり弾けるようにならない人もいます。
大切なのは「何歳で始めるか」よりも「レッスンの質」です。
弦楽器は、初級レベルの曲であっても独学で弾ける楽器ではありません。
楽器の構え方、弓の持ち方、弓の動かし方(ボウイング)、音程の聴き方、音程の取り方・・・
たった1音の綺麗な音を出すために、たくさんの技術が必要になるのが弦楽器。
ですから、最初の1〜2年でどれだけ正しい弾き方を身につけられるか、
どれだけ音を聴けるようになるかで、その後が大きく変わってきます。
3、4歳で始めることはできますが、何歳からでも遅いということはありません。
それよりも、きちんと基礎を教えてくださる先生との出会いの方が大切です。
子供のヴァイオリン練習時間
「家でどれくらい練習すればよいですか?」という質問をよくいただきます。
小さいお子さまの場合は、1日5〜20分程度から始めることが多いです。
まずは、毎日ヴァイオリンケースを開けて、楽器を持つ。
歯磨きをするのと同じ感覚で、毎日ヴァイオリンに触れる習慣をつけることから始めます。
大切なのは練習時間の長さよりも、少しずつでも継続することです。
実際に、以前教えていた生徒の中には、平日はインターナショナルスクールに通ってたくさんの課題をこなし、
週末は日本語や中国語の勉強、スポーツなど大変忙しい生活を送っているお子さまがいました。
その生徒さんは2日に1回、30分程度の練習を続け、ヴァイオリンを始めて1年半で発表会で
堂々と演奏できるようになりました。
→その時の動画はこちら(姉妹で演奏しています)
他にも、毎日30分〜1時間程度の練習で、幼児のコンクールで全国大会に出場した例もあります。
→予選の演奏動画はこちら
プロを目指すのでない限り、長時間の練習が必要というわけではありません。
短い時間でも、音をよく聴きながら自分自身を客観的に見つめて丁寧に練習することで、
少しずつ確実に成長していきます。
子供のヴァイオリンコンクールについて
ヴァイオリンを習うと、コンクールを目指すことはできるのかという質問もよくいただきます。
コンクールは必ずしも目指す必要はありませんが、子どもにとって大きな学びとなることもあります。
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目標を持って計画的に練習する経験
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素晴らしい響きのホールで演奏する経験
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緊張しても、自分一人で舞台に上がる経験
これらは、なかなか日常生活では得ることのできない経験です。
舞台に上がったら、「大人に助けてもらうこと」はできません。
間違えても、止まってしまっても、自分で何とかしないといけない。
止まってしまったら、少し戻って弾き直す。
分からなくなったら、それっぽい音を弾いて誤魔化す。
方法は何でも良いのです。
とにかく自分の力でピンチを乗り越える。
それは生きていく上でとても大事なスキルです。
そして、子どもの場合、賞を取るためにコンクールを受けるのではなく、
「大きなホールで演奏できる!」「ヴァイオリンを頑張ってるお友達と楽屋で話せる!」
「この日までにこの曲を仕上げて、ドレスを着て演奏したい!」
「大好きなピアニストの〇〇先生と一緒に舞台で弾きたい!」
こういった動機で挑戦するのが健全です。
特に大きなホールでの演奏は、楽器を響かせる感覚を掴むためにも重要です。
「自分の音が響いて気持ちよかった!」と思えることが大切。
賞はいただけたら嬉しいですが、子どもの頃に賞をいただけたかどうかは人生を左右しませんし、
むしろ悔しい経験から学ぶことの方が多いかもしれません。
「コンクールに出ることが楽しみ!」と、運動会と同じような感覚で挑戦できるお子さんには、
ある程度実力がついてきた段階でコンクール出場をお勧めしています。
おわりに
ヴァイオリンは、すぐに結果が見える習い事ではありません。
毎日の練習の中で、少しずつ音が変わり、少しずつできることが増えていきます。
その過程で、音をよく聴く力、集中して物事に向き合う力、そして人前で自分を表現する力が、自然と育っていきます。
始める年齢や進み方は、お子さま一人ひとり異なります。
大切なのは、正しく教えてくださる先生との出会い、そして、それぞれのペースで音楽を楽しみながら続けていくことだと思います。
ヴァイオリンという楽器を通して、音楽の楽しさだけでなく、努力を積み重ねる経験や、舞台で表現する喜びを感じてもらえたら嬉しく思います。
お子さまのヴァイオリンレッスンについてご興味がありましたら、レッスンの内容や方針については下記のページでもご案内しています。